無責任の構造 モラル・ハザードへの知的戦略

岡本浩一著 PHP新書 ISBN:4569614604
これは倫理の本ではないが、モラル・ハザードがなぜおこるのか、心理学的側面から分析している。自分自身がモラル・ハザードに加担しないためにも繰り返し読んでおくとよい。
雪印の件で、脱脂粉乳に規定以上の細菌が発生したとき、廃棄処理を行い経営層に知らせることによるコストはほぼ確実に読める(損失はゼロにならない)が、黙って出荷したり再利用してしまえば損失がゼロですむ可能性があった(実際には大損害となったが)。人間の判断は後者に傾きやすいということもこの本が教えてくれる*1
また、集団で意思決定を行う際にリスクの高い選択肢を選びがちになる「リスキー・シフト」という現象にも注意が必要である。
功利主義によって行動の是非を判断し実行するに当たって、リスクを正しく評価するためにも、この本で書かれているポイントには留意すべきである*2

*1:損失がゼロになる可能性のあるほうを好む傾向をチャレンジのバイアスとか冒険的バイアスという。利得の場合は、利得がゼロになる可能性のある選択肢は好まれない。これはリスク・アバースなバイアスという。

*2:リスクに関する認知バイアス功利主義の欠点というわけではないが、実際に応用するにあたって誤りが起こりやすいのであれば、その応用上の工夫が必要になると思われる。