自己責任とは?

戦争状態のイラクで発生した日本人人質事件は技術倫理の問題ではないが、被害者に対して「自己責任」ではないかという非難がなされたことに私は大変違和感を覚えた。
技術倫理でよく言及される「自己決定」や医療倫理における「インフォームド・コンセント」とも密接にかかわっていると思えるので、現時点での違和感を整理しておきたい。
医療における「インフォームド・コンセント」は医師が患者に自己決定できるよう、十分な情報を提供し、医師にとって善いと思う治療でなく、患者が望む治療を実施するための前提というべきものである。ここで重要なのは、患者は治療に関する自己決定をするのだが、その結果に患者が責任を問われることはないし、医師はその患者を放り出すことはできない。*1
日常的な言語感覚だと自己決定と自己責任は不可分な関係と思い込みがちだが、そうとはいえない場面は医療現場のほかにもあるだろう。
今回の日本人人質と日本国政府との間には患者=医師のような関係はお互い認識されていないようだが、国家には自国民の安全を守る責務があり、国民がどのような行動を取るかは他者危害原則にしたがう限り自由である。政府はその責務を果たすため渡航を自粛するよう呼びかけるのは正しい。ただ、それを承知で入国し拉致された人が拘束されたままの段階で「自己責任」を唱えるのは国の責務を放棄したいとしか思えない。*2医師であればこういっているのと同じである。

私の忠告を聞いた上であなたが選んだ治療法でしょう。どうなっても私は知りません。

*1:インフォームド・コンセントはもともと何度かの訴訟を経て確立してきた概念なので、法的な責任を回避する手段にすぎない、という見解もある。ここでは自己決定権を実質的に担保する手段として考えたい。4/28追記

*2:政府が人質や家族をおどしているように見える。