自動車のリコール制度

三菱自動車の場合、リコールすべき欠陥についてそれを隠蔽したことが問題になっているが、リコール制度やその限界について復習しておきたい。

リコール制度は、昭和44年(1969年)から運輸省の省令で実施されてきたが、法律の裏付けができたのは平成7年(1995年)からであり、道路運送車両法によって定められることとなった。法律では「保安基準」というものを定めており、設計または製造時の問題で、これに適合しない(またはその恐れがある)車種について無償で修理をするべく運輸大臣(今なら国土交通大臣)に届け出る制度である。

平成14年(2002年)には、自動車メーカー等からの届出だけでなく、大臣がリコールを命じることができるように改正された。とはいえ、実際には国が自動車の欠陥を指摘することは難しいようである。

リコール制度の欠陥については、日弁連からも三菱自動車の2000年のリコール隠しに関連して、以下の提言が出ている。

http://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/iken/00/2000_21.html

リコール隠し三菱自動車だけでないこと。自動車の事故情報やクレーム情報がメーカーに集まるだけで、その情報が監督官庁にも開示されず隠せてしまうこと、などなど重要な指摘がある。一部は2002年の改正で盛り込まれている。

また、以下の意見も欠陥の公表という倫理問題について考えさせられる指摘である。

http://www.amy.hi-ho.ne.jp/nagatsuma/ronten.htm

自動車は道路運送車両法で、保安基準を満たしていない車両に関してリコール届け出による製品回収・無償修理を企業に義務付けている。しかし、自動車メーカーが運輸省にリコールを届け出る場合、①原因と対応策の確定、②できるだけ早く無償修理を終える、③そのための部品の確保、など体制が整っていないと実際には難しい。②に関しては、運輸省の非公式の指導や、販売店からの要望などを勘案し、「三カ月以内におおむね九〇パーセントの無償修理を終える」ことを目標として、準備を整えた後、リコールを届け出ているメーカーもある。リコール届け出に対するハードルは高い。

公表とか報告というのは難しいもので、特に原因が分からないものや対策が取れないものについては、まず公的な場に出すことができない、とたいていの人は自分がその立場なら考えるのではないか。

自動車のリコール制度の場合、無償で改善を行う必要があるわけだから、原因が分からなければ保安基準に適合しないことが明白であっても手の施しようがない。

仮に対応策が確定していなくても、危害発生を防止する観点から、迅速に危険情報を公表する、危険情報公表法(仮称)が必要と考える。

危険情報について速やかに公表しなければならない、そのようなインセンティブがはたらくように懲罰的な罰金などを制度化するのもやむを得ない、と上記の文章は指摘していると読み取れる。

それはもっともなことで、ぜひ実現して欲しいものだが、原因や対策が簡単に分からないのと同じくらい、危険性や不具合があるかどうかも容易に判断することはできないのではないだろうか。どのようなことをすると危険なのか、それすら明らかでないことがあるように思われる。

自然災害でも人災でも、危険を判断し呼びかけるのは全人格を問われるしんどい瞬間だと想像する。この時に「公衆の安全」を第一に考えることができるかどうかが、技術倫理を実際に生かせるかの分かれ道だと思う。

リコール制度は、会社が大臣に届け出る(大臣から命令することもあるが)ため、一技術者が自分の判断で勝手にリコールすることはもちろんできない。そうすると、会社の決定でリコールが握りつぶされたとき、技術者が公衆の安全を実現するためにとれる方法で、内部告発以外に効果的な方法があるだろうか。

会社が正しく経営を行うために、会計監査以外にもいろいろな業務の監査を第三者から受けるとか、情報を公開するなどして健全性を維持していかなければならない時代が来ているのかもしれない。